☆ 「販売台数を維持するために、売れる車を優先してきた。 そうすると、どうしてもスポーツカーが消えていく。 その結果、若い人の車離れにつながったと反省している」


 日本でスポーツカーを"文化"にできるのか――。


 トヨタ自動車は「86(ハチロク)」をマイナーチェンジし、8月1日に発売する。86は富士重工業(スバル)と共同開発し、2012年から販売している小型スポーツカー。トヨタは86、スバルは「BRZ」のブランド名で展開してきた。5年目を迎えた今回が初めてのマイナーチェンジとなる。

トヨタは過酷なことで知られるニュルブルクリンク24時間耐久レースなどに86で積極参戦してきた。「そうしたレースから得られた技術によって86の走りを深化させた」と86の多田哲哉チーフエンジニア(CE)は胸を張る。

 国内で年間約1万台を販売


 発売から丸4年、86は国内で累計約5万2000台販売されている。初年度は2万台超、昨年も6000台を販売し、このたぐいのスポーツカーとしては上出来だ。海外でも、米国を中心にオーストラリアと欧州で約11万台販売。BRZとの合計では全世界で20万台を越え、「アフターパーツ市場が成り立つと言われる10万台を大きく越えた」と多田CEは胸を張る。

 振り返ると、トヨタは「スポーツ800」(1965〜1969年)、「2000GT」(1967〜1970年)、86のモデルとなった「AE86(カローラレビン/スプリンタートレノ)」(1983〜1987年)など、小型のスポーツカーをラインナップしていた時代があった。しかし、「MR-S」(1999〜2007年)を最後にスポーツカーを手掛けることはなくなった。

 2000年代、トヨタのグローバル生産・販売台数は急速に拡大した。業績も絶好調で、2001年度に1兆円を突破した営業利益は、それからわずか6年後には2兆円に届いた。

 だが自動車好きからのトヨタの評判は決してかんばしくはなかった。「技術の日産、販売のトヨタ」と称されたように、トヨタの強さは車自体というよりも販売力にあると言われた。

 売れる車を優先し、ワクワク感がなくなった

 もちろん、壊れないという信頼性やコストパフォーマンスの評価は高い。だが、ワクワクドキドキするような車ではない。これは多くのトヨタ関係者も認めていることだ。

 トヨタ車は、車に特別なこだわりを持たない多くのユーザーのニーズを十分に満たしていた。だからこそ世界最大の自動車メーカーにのしあがった。しかし、日本に限らず、先進国で進む若者の車離れに危機感を強めると同時に、自社の車づくりの姿勢がこの現象を助長していると反省するようになった。

 「販売台数を維持するために、売れる車を優先してきた。そうすると、どうしてもスポーツカーが消えていく。その結果、若い人の車離れにつながったと反省している」と嵯峨宏英専務は率直に語る。

 こうした反省から2007年、トヨタは再びスポーツカーの開発を決めた。だが、プロジェクトを任された多田CEは、当初どういうスタンスで臨むべきかわからなかったという。そこで、当時、マツダで「ロードスター」の開発責任者を務めていた貴島孝雄氏に教えを請うため広島を訪れた。

 スポーツカーは台数が出ないため、採算を取るのが難しい。多田CEは「ブランドの広告塔だから多少の赤字でも許されるのでは・・・」と考えていたが、貴島氏に会って冷や水を浴びせられた。

 「量販車メーカーで、スポーツカーを作ることの大変さをわかっていない。一番やってはいけないのは景気の波で(スポーツカーの生産を)やめたり、始めたりすること。景気の悪化でやめてしまいファンを裏切るなら、最初からやらないほうがいい」と貴島氏は語ったという。

 富士重工業との共同開発を経て、2012年に発売した86。だが、飛びついたのは、振り向かせたかった若者ではなく、かつての若者だった。

 マイナーチェンジで価格帯は上昇

 「残念だが予想通り、顧客の中心は40〜50代だった」(多田CE)。それでも、限られていた予算をテレビCMには回さず、地道なファン作りの活動を続けていった結果、直近の購買者は20代から60代までほぼ均等になってきた。20代が一番多い月もあるという。

 「他の車種に比べて少ないものの、きちんと利益も生み出している。それがスポーツカーを続けていくために重要なこと」(多田CE)。

 では後期型の発売で、さらに若い層を取り込めるだろうか。価格面を見ると、前期型にあった199万円の「RC」というグレード(レース車にカスタマイズすることを前提にしたベース車)はなくなった。後期型の価格帯は262万円から325万円と、RCを除く前期型(241万円から305万円)からアップする。

 「中身のアップグレードを考えれば、価格は上がっていない」(多田CE)と主張するが、20代や30代で簡単に買える価格ではない。それでも、後期型の投入によって、中古車市場に前期型が増えていくことは間違いない。手頃な中古車でスポーツカーの楽しみを知ってもらい、その裾野を広げていく。マイナーチェンジにはそうした狙いもある。

 車のコモデティ化に危機感

 自動運転やカーシェアリングが普及すると、車はコモディティ化していくと言われている。単なる移動手段としての車しか作れなければ、自動車メーカーが得られる付加価値は激減しかねない。車好きの心を動かす車を生み出していく必要がある。

 グループで年間約1000万台を販売するトヨタにとって、台数のことだけを考えれば、わずかな割合でしかない86やG’sに力を入れるのはこうした理由がある。

 「スポーツカーは、カルチャーです」

 これは、2012年、86が初お目見えした時のキャッチコピーだ。まだ「スポーツカーが文化になった」とは言い切れない状況ではあるが、4年前に比べると着実に前進していることは間違いない。
http://toyokeizai.net/
現在、スポーツカーを文化と言い切れない理由は、スポーツカー文化とはモータースポーツ文化を根底から支えている一部であり、日本のモータースポーツ文化もまた、成熟はしきれていない。連綿と続いてゆくモータースポーツ文化の土壌を育てる努力を怠っていたのではないか?製品を作って、売れば自然に文化が発生する訳ではない、育ててゆかなければスポーツカー文化、またモータースポーツ文化としての成長は無いと思う。「最近の若者は車に乗らなくなった」と言われるが、しかし興味を持てなくなった訳ではないと思えて仕方がない。以前、休日の丸の内で出会った男児が彼方に停まっていた原色のスーパーカー達を見つけて、意外にも『わぁー、スポーツカーがいっぱい!!』と叫んだ言葉に驚いた『なんだ!自分の幼い頃と同じじゃないか!!』と思ったと同時に『どうせ車なんか興味ないだろう…』と見ていた自分が恥ずかしくなった事を思い出した…。